訓練ワークショップ(3日目)

子どもの心理療法

講師 ラルフ・モーラ(個人開業)

 このワークショップでは、子どもの治療に焦点を当てます。そのため2つの主要な焦点の1つは発達です。発達は、たとえば自己と対象関係などを考察するための軸を提供します。焦点の2つ目は、子どもとその環境との相互作用の役割を提示するのに役立つシステム理論にあります。実際に、子どもの治療は子どもの精神内的生活とそれを取り巻き、支え、促進するシステムの両方を知ることに依拠しているとみなされています。理論的理解はメラニー・クライン(Melanie Klein)、ドナルド・ウイニコット(Donald Winnicott)、ハリー・ガントリップ(Harry Guntrip)、その他を含む英国学派の対象関係論によって提供されます。システム論は、私達はすべて、家族システムを含む生活の多様なシステムの一部分であり、ルールと儀式の全体システム内にある不適応的な境界やサブシステムが相互作用を支配しているとみなします。私自身はジェイ・ラッピン(Jay Lappin) とチャールズ・フィッシュマン(Charles Fishman)の指導の下で構造的家族療法の訓練を受けました。彼らに加えて、サルバドール・ミニューチン(Salvador Minuchin)、ハリー・アポンテ(Harry Aponte) とブラウリオ・モンタヴォ(Braulio Montalvo)についてお話しします。

※ このワークショップには当日通訳がつきます。

 

中国老荘思想の危機介入

トレーナー・ケースプレゼンター:
李 江波(皖南医学院附属蕪湖市第二人民病院臨床心理科:中国)
劉 暁濱(深圳市薬物解毒センター:中国)

コメンテーター: 石井 剛(東京大学大学院総合文化研究科准教授)

 事故、災害、親友の死など避け得ない危機に適切な対応をし、上手く乗り越え、危機によるストレスを解消していけるよう、使いやすく、受け入れられやすい危機介入システムを創ることが重要な課題である。人間には、特有な文化環境を配慮し、文化背景に合う危機介入システムが必要である。中国人に深く影響を与えている道家(老子、荘子)思想の最高の境地である「想得開」、‘どんなことがあっても、心が広く、崩れない’ということが、危機介入システムの重要な目標と考えている。本ワークショップでは老荘思想を取り入れた、実際の危機介入ケースを検討する。

 

キャンパスにおける危機介入

トレーナー:橋本 和典(国際基督教大学)
      李 樺(中山大学心理健康教育カウンセリングセンター主任:中国)

 青年期の発達の節目節目に危機がある。しかし、危機にこその自我発達を促進しようとする逞しいキャンパスの影は薄い。急激なやる気の途切れによる授業ドロップアウト等の小さな危機対応はもとより、自殺、自傷、非社会・反社会的行動化への危機介入もあまりに脆弱である。その危機介入のなさの背景要因には、教職員や学校組織の危機認識の回避の問題が深く横たわる。本ワークショップでは、実際の事例を使って、危機における個人と組織の力動分析とそれに基づく介入技法を学ぶことを目的とする。また、危機介入に欠かせない個人と組織トラウマの査定法についても触れる。大学のみならず、学校事故による危機が絶えない中学、高等学校、専修学校のメンタルヘルス専門家の参加も歓迎する。

※ このワークショップには当日通訳がつきます。

 

精神病の集団精神療法

トレーナー:吉松 和哉(式場病院)

 「精神病の集団精神療法」では統合失調症を中心とする精神障害者が対象で小グループ、しかもSSTや認知行動療法的ではない精神力動的なそれを考えている。このワークショップでは、適応となる対象患者、治療構造、治療技法、治療目標などを実地体験に近い形で学ぶことを狙っている。対象患者は神経症圏や人格障害の患者と違い、自我の脆弱性が目立つが、それは自我境界が曖昧で、些細なストレスが自我侵襲的になりやすいことを意味する。故にこの治療の目標とは自我強化をはかることで、その具体像の体験を期待する。

【定員】10名内外

 

現代の青年期危機を考える

トレーナー:牛島 定信(三田精神療法研究所) 

 スタンレー・ホールが「青年期」adolescenceを提唱したのが1904年、ER・エリクソンが自我同一性 ego identity という概念を提唱して新しい青年期像を描いてみせたのが1959年である。そして、21世紀になった現在、青年期は再び姿かたちを変えてきているかにみえる。ことに、同世代関係の様相が一変し、イジメが必発になったとしか云いようがない状況を呈しているのだ。心底は「死にたい」気持ちに彩られている。ワークショップ前半は現在の青年期心性を論じ、後半はケースを通じた議論が進めばと思っている。

  

危機介入ワークショップ

トレーナー:小谷 英文(PAS心理教育研究所) 

 不安は、危機すなわち死の脅かしの信号であり、適切な対処を待つ危機からのリトリート状態を表すものである。対処がなければ、隠された脅威が心的エントロピィを高め、緩やかに自己破壊の形を取って死に向かう。慢性うつ、引きこもり、同一性拡散、自己破壊性障害、強迫性障害、不安障害が長期にわたっている患者/クライアント群は、基本的に陰性治療反応(NTR)の慢性化が生じている。彼らの慢性的不安や反復症状の奥に死の脅威に対する危機介入の求めがある。これに応える心理療法の実践技法とその訓練法を学ぶ。

【条件】A4用紙上半分に自験例概要、下半分に困難面接場面逐語を記載し持参。

【定員】20名