大会会長挨拶:IADP2015

 

日本において、患者の在院日数が減り地域ケアや在宅ケアが推進されるようになり、精神疾患をもつ多くの人々や身体疾患をもって適応障害やうつに陥る人々は、自分自身で身体やこころとつきあう必要がでてきている。また2003年に日本では自殺者数がピークとなり、国は自殺予防、抑うつの重度化防止に取り組むようになってきた。この流れの中で、精神疾患をもつ人々への認知行動療法や行動修正治療モデルが重要視されるようになり、一時的な認知や行動の改善もみられるようになってきた。しかしながら抑うつや不安はそう簡単には改善せず、職場復帰や社会生活の維持が困難な人々も増え、多くの企業や学校がうつを有する人々へのアプローチの方法を求めるようになってきている。

一方、国際社会においても、無秩序で不合理な事件・戦争が相次ぎ、大きなトラウマや人生における負担を抱えながら過酷な日々を過ごさざるを得ない人々が増えてきている。そしてその状況は「うつや不安」と表現される間もなく、人々を押し潰していく。

今回、このような国内外の状況において、人々が直面している“無力感”“うつ”に焦点をあて、精神力動的なアプローチと治療が、どう有効となりうるのか、を参加者とともに吟味できればと考えている。

特にうつ状態やうつ病、適応障害、うつ病とともに人格・発達上の課題を有している患者様への治療やケアの領域、もしくはリエゾン精神医学やリエゾン精神看護、緩和ケア、がん看護の領域で、無力感と向き合い、治療やケアを提供している医師、臨床心理士、看護師、専門看護師(CNS)、精神保健福祉士、学生の方々に参加して頂き、無力感を有する患者、家族の治療やケアにおける力動的心理(精神)療法、力動的心理(精神)療法によるアプローチの知識とスキルを向上させるための場として本大会を活用して頂きたいと考えている。

今回、熊本の地で開催することで、力動的アプローチと治療が、無力感克服の鍵となり、また日々の現場、各職種の人間理解とアプローチの共通理論として用いられることを期待している。

大会会長 宇佐美しおり(熊本大学大学院生命科学研究部 精神看護学 教授)