大会会長挨拶:IADP2013

 東日本大震災から2年がたちました。その衝撃はいまなお大きく、個別性をもって見える形、見えない形でなお続いています。特に、福島は、原発の問題を抱え、物理的安全の確保すら不安定な環境の中で、不安、緊張の中に晒され、生きている現状があります。震災以降の2次、3次、4次と累積される心の傷は、見えない不安とも重なり、ストレスを増大させ、心身の力を奪い、多くの悪影響を引き起こします。慢性疲労、睡眠の乱れ、ストレスによる体調不良にはじまり、うつの蔓延、成人病の増加、子どもたちの癌不安、普段ならありえない不注意の事故、虐待や暴力、そして痛ましい自殺の問題までさまざまです。

 IADPは、これまでの2年間、宮城県仙台市に設立した震災復興心理・教育臨床センター(EJセンター)と共同で、精神分析、力動的心理療法の立場から、震災支援に当たってきました。個人や社会によって隠され見えにくくなる心の傷、PTSDの予防と治療活動です。しかし、その必要性を求める声は、いまだ十分には届いていません。自分の痛みを見ないようにする個人の回避が、社会の回避と重なりPTSDは遷延しています。そこで、前回の仙台大会に続き、IADPは、今なお危機感の高い福島で、傷、ストレスに向き合い、語り、荷重ストレスによって沈む心の力を解放する取り組みを、福島の中心都市のひとつ、郡山市で行うことを決定しました。

 米国9.11テロ後の青年のPTSD治療対策リーダーであったセス・アロンソン(Seth Aronson)先生、戦争PTSDや子どもの外傷治療の権威であるラルフ・モーラ(Ralph Mora)先生、日本の精神医療を牽引してこられた牛島定信先生や、吉松和哉先生をはじめ、日本国内外から第一線の専門家が駆けつけ、うつやPTSDに関連した専門家向けの充実した訓練プログラムを組むことができました。また、今これからの福島での地域のリーダーシップを期待される、行政や、企業の方々などを対象とした震災支援心理教育ワークショップ「アゴラ」を開催します。東北の、福島の歴史を背負い、地域を生きるこれからの子どもたちが、心を逞しくすることに希望を持てるよう、まず、大人が自分と向き合い、心に潜む元気感覚を取り戻す試みをはじめましょう。この難局に挑み、さらなる力を発揮したい方のご参加をお待ちしております。

大会会長 橋本和典 Ph.D, CGP (PAS心理教育研究所クリニカルディレクター/震災復興心理・教育臨床センター講師)

大会会長プロフィール

73年福島県須賀川市生まれ。東京大学大学院教育学研究科修士課程を経て、国際基督教大学大学院博士後期課程修了。博士(教育学)。心理療法家(臨床心理士、全米公認集団精神療法士)。現在、東京目黒区にある心理療法専門機関のPAS心理教育研究所臨床心理部門主任。東京大学駒場学生相談所、立教大学非常勤講師。専門は、精神分析的心理療法および集団精神療法。震災後からPTSDの予防・治療活動を行い、2013年5月に「福島心の復興協議会」を立ち上げる(事務局長)。主著に、『青年期退行性困難患者における自己破壊性脱却機序』(博士論文)、「アイデンティティ教育」「人格障害の集団精神療法」「男性の成熟性―集団同一性から自我同一性へ」など。